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青森家庭裁判所八戸支部 昭和37年(家)151号 審判 1963年3月28日

申立人 山田安男(仮名)

相手方 山田カツ(仮名)

主文

一、別紙目録中、二、三、五、の各物件は申立人の所有とする。

二、同目録中一、四、の各物件は、相手方の所有とする。

三、申立人は相手方に対し、金二〇万五九七五円、並びに、こたに対する本審判確定の日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

理由

本件申立の要旨は「被相続人山田幸治は、昭和三六年一月七日死亡し遺産の相続が開始した。申立人及び相手方は、被相続人の遺産の共同相続人である。ところが遺産の分割について共同相続人間に協議が調わないので適正な分割を得る為本申立に及ぶ。」というにある。当裁判所は当事者の審尋、鑑定、検証、その他、各種の事実調査等を行い、それらの結果に基き、つぎのとおり判断した。

第一、相続人

被相続人山田幸治は昭和三六年一月七日死亡したが申立人及び相手方は共同相続人として二分の一宛の相続分を有する。

第二、遺産

被相続人山田幸治の分割さるべき遺産並びにその評価は別紙目録記載のとおりである。(同目録中三、の宅地の評価について、鑑定の結果によれば、地上家屋が存在する為、更地に比し半額の減価を認めているが地上家屋の所有者である申立人が右宅地を使用収益するとすれば、減価の理由はないものと解せられるところ、後記認定のとおり右宅地は申立人に分割所有させることとしたので、更地としての評価額によるのが相当と認めた。又、同目録中四、の宅地の評価について、鑑定の結果によれば当時、他に賃貸中であつた為、明け渡の返還を受ける諸事情を斟酌して、半額の減価を認めているが、現在は、既に、期限到来により、右賃貸借契約が終了していることが認められるので更地としての評価額によるのか相当と認めた。)

第三、分割

被相続人は相続人たる申立人及び相手方に対し格別生前贈与をしたことなく、又、遺言もないので、本件遺産の評価額、総額八八七万九五〇円につき、相続分の割合を以て配分すると、それぞれ四四三万五九七五円相当を取得しうることとなる。

そこで、本件遺産を相続人たる申立人及び相手方に対し、如何に分割すべきかについて考える。

まず、遺産目録中三、の宅地は、十和田市中心の繁華街道路に面し、地上に申立人所有家屋、家屋番号十和田市大字第○○○○番木造木羽葺二階建旅館一棟、建坪三〇坪七合五勺が存在する。右家屋には、被相続人山田幸治存命中同人と妻よる相手方が居住していたが、現在は相手方が、実母と共に居住使用し、被相続人死亡後、遺産目録中農地の耕作につき、申立人と相手方間に争いが生じ、遂に相手方において姻族関係終了の意思表示をするに至つたので、申立人が相手方に対し使用貸借契約解除を理由として、右家屋の明渡請求訴訟を青森地方裁判所十和田支部に提起している。従つて、遺産目録中三、の宅地の分割帰属については、申立人と相手方間において、今後の生活関係に影響を及ぼすこと大であることが考えられるが、右宅地はもと申立人の先代しかの所有であつたところ、昭和一二年頃しかの長男貞一が他から金借の際、抵当権を設定したので、競売を申し立てられこれを免れる為申立人において、右債務を弁済し、よつて、申立人名義に移転登記を受くべきところ、将来の相続の手続の繁を考慮して直接子である被相続人名義にしたものであることが認められ、右事情と共に、右宅地上に申立人所有家屋が存する為、宅地を相手方の分割所有とした場合に生ずる権利関係の錯綜をさける為、これを申立人の所有とすることとする。

遺産目録中一、の田は、右宅地と同様の経緯で被相続人名義となつたものであるが、昭和二五年頃まで申立人が耕作し、昭和二六年被相続人と相手方が結婚後被相続人の世帯において、これを耕作してきたところ、昭和三六年被相続人が死亡しよ、申立人は、相手方が百姓ができないと主張して一方的に自己において耕作しようとした為、相手方との間に紛争を生じ、申立人が相手方に対し、立入禁止、刈取禁止の仮処分執行をなし、その後、相手方が申立人に対し、執行吏保管の仮処分執行をなし、現在執行吏により耕作刈り取りがなされているものである。したがつて、相手方が被相続人死亡までの間、被相続人の耕作に協力してきたこと、及び、相手方が将来農業による生計維持を希望している点をも斟酌して右田は相手方の所有とすることとする。つぎに、遺産目録二、の畑はもと軍馬の放牧場であつたところ申立人が政府から被相続人名義で払い下げを受け、申立人及び被相続人らで耕作してきたが、被相続人と相手方との結婚後は昭和二七年まで被相続人が耕作したが、昭和二八年からは申立人が人夫賃を支払つて耕作してきたことが認められる。

そうすると右畑は申立人の所有とすることが相当である。遺産目録中四、の宅地は被相続人が昭和三三年二月から上村信吉に賃貸し賃料を受領してきたものであるが、現在は期間満了により、右契約が終了しているものであるところ、これまで認定の分割帰属の結果を斟酌し、評価額において可及的公平な現物分割を期する為、相手方の所有とするのが相当である。遺産目録中五、の電話加入権は、申立人所有の前記家屋(家屋番号十和田市大字第○○○○番)に設置されているから、申立人の所有とすることとする。

右分割の結果申立人は、相続分に比し、二〇五、九七五円に相当する余分の利得をうることとなるので、右金額を以て相手方に対する債務負担とし、これに対し、本審判確定の日から支払いずみに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を付加することとする。

なお、申立人は、被相続人が契約当事者であつた簡易保険こ六六二二七号の掛金五万六千百円、被相続人の死亡した昭和三六年一月分の給料一万七千円、及び被相続人の退職金二一万円を遺産として、その分割を求めるので、この点につき判断するに、簡易保険については、保険契約者が被相続人被保険者が申立人、受取人が相手方なる終身保険で、保険金一〇万円月額保険料八五〇円、掛金累計額五万六千百円に達するものであるが、右掛金が遺産となりうる為には、被相続人の生前、右契約を解約又は解除の上、掛金の取戻しを受けているか取戻請求権が発生していなければ、これを認めえないところ、右契約は、なお有効に存続していることが認められるから、相続人の何れが契約当事者の地位を承継するかの問題はともかく、右掛金を以て被相続人の遺産と解することはできない。給料と退職金については、被相続人は存命中農林省食糧事務所三本木出張所に勤務していたものであつて、昭和三六年一月分の給料として、死亡日まで日割計算の上五、五五〇円と退職金二二万八〇円とが相手方に支給せられたことが認められる。しかし右給料については、相手方において既に生活費に消費していることが認められるから、本件審判において、遺産分割の対象とはなりえない。つぎに退職金については、被相続人が国家公務員であつたから、死亡退職金の支給につき、国家公務員等退職手当法第二条第一項第一一条に基き配偶者を第一順位者として支給されるべきことが法定されておる。したがつて、右退職金二二万八〇円は相手方が自己の固有の権利として受領すべきものであつて、被相続人の遺産には含まれないこと明らかである。

以上のとおりで、被相続人の遺産につき、主文のとおり現物分割をなし、かつ、申立人に対し、債務を負担させることとした。

(家事審判官 田辺博介)

別紙目録<省略>

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